初めての太陽系外天体・オウムアムア。

(提供:ESA/Hubble, NASA, ESO, M. Kornmesser)

 

2017年10月19日、ハワイで初めて観測された恒星間天体「オウムアムア」。
太陽系の外からやってきて、あっという間に飛び去ってしまった謎の天体だ。

 

2018年夏、PlanetFilmでは、オウムアムアの正体を追いかけて、
ハワイ→アメリカ→ヨーロッパを巡る地球一周のロケに出かけた。

 

会社の名前が初めてクレジットされた記念すべき番組なのだが、
一年前のことなのに記憶が薄れてきている。
(だから備忘録というのは直ぐに残さなければいけないのだ。)

 

もともとのきっかけは、2017年10月25日の夜、
寝転がってツイッターを見ていて目にとまった
国立天文台・渡部先生のツイート。

 

ずいぶん興奮しているようで印象的だった。

 

太陽系起源ではない、外から来た初めての天体・・・。
一体何者なのか・・・。
なんだか面白いことになりそうだ。

 

そもそも、我々の太陽系というのは、そんなに閉じている世界なのだろうか?
ウルトラマンにしろアベンジャーズにしろ
遠い星から大挙して地球を訪れているのに・・・。

 

ところが実際に、長い人類の天体観測史上、
太陽系の外から来た天体は、これまで一つも観測されていないのだ。

 

発見直後、折しもNHKが誇る宇宙番組コズミックフロントの提案の時期。
この天体を追いかけたら面白そうだ・・ということで話が進んだ。

 

渡部先生がツブヤいた時点で、発見から6日後。
この頃は観測されたばかりで名前もなく、識別記号は、「C/2017 U1」。

 

頭文字のCはcommet,
最初の太陽系外天体は、彗星だろう、と判断されたのだ。
ところがこの彗星には、特徴とされるガスの尾が発見されず、
その後、A(Asteroid小惑星)/2017 U1 となり、
最終的には、I(Interstellar恒星間天体)/2017U1 と、二転三転している。

 

そして2018年の終わりにかけて、この謎の天体についての報道は一気に加速。
名前も正式に、ハワイの言葉で斥候を意味するオウムアムアoumuamua に決まった。
それにしても、この太陽系外天体の発見、なぜそこまで報道が盛り上がったのだろうか?、

 

それはとにかく特徴的な形。
全長400〜800メートルある巨大な葉巻型(犬のウンコ型とも呼ばれていたが)で、
太陽系にはこんな円筒状に細長い天体は存在しない、ということから、
「宇宙船説」が、がぜん高まったのだ。

 

さらに、巨匠アーサーCクラークが1973年のSF小説「宇宙のランデブー」で
人類が最初に遭遇する太陽系外天体を円筒状の巨大宇宙船「ラーマ」として描いていたものだから
SF小説ファンも盛り上がった。
(そのほか、ロンギヌスの槍説なんかもあったけど
なんと言ってもクラークのリアルな想像力は改めて凄かった。)

 

そんな訳で、2018年夏、
NHK提案も採択され
既に地球を遠く離れて、木星軌道にまで去ってしまったオウムアムアの正体を探すロケに
旅立つことになったのだ。

 

最初のロケ地、ハワイでは、
第一発見者のロブ・ウェリク博士、
その上司であり、ネイチャー論文の執筆者・カレン・ミーチ教授がいる
ハワイ大学天文学研究所を訪問。

 

ハワイ大学では、地球にぶつかる危険性のある彗星や小惑星を
隣の島にあるパンスターズ望遠鏡でつぶさに観測している。
ウェリクさんは、毎日、前の晩の膨大な画像をチェックする研究をしている。

 

ウェリクさんがいつものルーティーンで、
前の晩のデータをチェックしていたところ、
地球近くをものすごいスピードで飛び去る物体がデータに映っていて
なんだコイツ?と不審に思い、軌道を調べたところ、
太陽系外から来たという計算結果が出たのだ。

 

ゲームやSF映画が大好きだというちょっとオタク気質なウェリクさん。
彼がこの物体ヘンだな・・・と思って調べなかったら
世紀の発見は無かったのだから、この人がマジメで良かった。
(部屋の隅にプレステのゲームと映画のDVDが転がってたけど。)
なんにせよ、人類初の太陽系外天体を見つけた栄光は、このウェリクさんにあるのだ。

 

あと、このハワイ大学の望遠鏡がなかったら
ものすごいスピードで地球に衝突していたかもしれない
危険天体に誰も気づかなかったというのも恐ろしい話だ。
正面衝突してたら核爆弾の何十倍以上の破壊力があったとか・・・。

 

それにしても軌道といい、形といい、
最大の関心事は、この物体が何者か、ひょっとしたら宇宙船なのか、だったのだが、
ハワイを訪問したわかったのは、
多くの天文学者は、ハナから宇宙船説など全然信じていなかったということ。

 

実際、オウムアムアの宇宙船説を検証した
宇宙人探査で有名なカリフォルニア大バークレー校の研究者でさえ、
「「ダメ元」で調べてみたよ・・・」、程度のテンションだった。
この調査でも人工的な電波は一切検知されず、
オウムアムア宇宙船説は早々に否定されている。

 

 
では、オウムアムアの正体は何か?
争点は、「彗星」か「小惑星」か、の二択。
両者の違いは、内部に氷が含まれるか否か。
どっちでも良い、という声も聞こえてきそうだが、
初めての太陽系外天体がどこから来たのか、知る上で、この違いは非常に重要なのだ。

 

発見当初は、「彗星」だろう、と思われていた。
太陽系の内部でも、遠くから来る天体は、大抵、彗星だからだ。
しかし、オウムアムアには、
彗星の証拠である、ガスのしっぽが観測されなかったことから
岩石質の「小惑星」、とされ、それでもやっぱり彗星でないとおかしい、と考える
天文学者たちの間で議論が長引いていたのだ。

 

そして、番組では、ハワイ訪問時に、オウムアムアの最新見解を
ミーチ教授から聞くことが出来た。
それは、オウムアムアが、わずかに加速しており、
その加速数値から、太陽熱の影響でガスを放出していること、
つまり、正体が「彗星」である、という話。

 

ミーチ教授はハッブル宇宙望遠鏡での長期観測を行っており、
その結果から、オウムアムアは彗星である、と結論づけたのだ。

 

 
こうしてオウムアムアは彗星、とするオチで番組も終わるのだが・・・
今も「宇宙船」説を唱え続けている研究者がいる。
ハーバード大の天文学部長、アビ・ローブ教授だ。

 

番組では、このローブ教授にもインタビューしている。
ただし、宇宙船説についてでなく、
パンスペルミア説(生命起源説)についての取材だったが・・・、

 

このときもローブ教授は、カメラを回していないとき、
宇宙船説を力説し続けていた。

 

彗星説が確定した2019年に入っても、
ローブ教授は宇宙船説を主張し、権威ある学術誌に論文を載せている。
とにかくローブ教授曰く、宇宙船では無いという決定的な証拠が無い、というのだ。

 

 
長細い形状・・・、地球すれすれの軌道、そして加速している状況、
総合的に考えても宇宙船の可能性を考えない方がおかしいし、
否定するならそれだけの論拠を示してくれ!というローブ教授の強気の姿勢は、
とてもわかりやすい。

 

番組の終盤では、オウムアムアが発見されたことによって
太陽系が開かれた存在へと変わったことを、
多くの研究者が言及した。

 

これまでも、オウムアムアのような天体は訪問していたが、
皆、気づかなかっただけなのだ。

 

この記事を書いている頃、また、渡部先生のツイートが・・・。


どうやら次の訪問者が見つかりはじめているようだ。

 

オウムアムアは、太陽系が開かれていることを知らせてくれる初めてのメッセンジャー、
と番組では結論づけた。

 

番組では紹介できなかったが
北アイルランドのフィッツシモンズ教授の言葉。

 

「「初めて」は誰にでもたった一度しか訪れない。
人類にとって初めてのイベントに立ち会えることは幸運なこと。」

 

Gen Inoue